活動報告

活動報告

2018年11月13日
第37回長野県病院薬剤師会薬剤師専門講座が開催されました。

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第37回長野県病院薬剤師会 薬剤師専門講座
新時代を迎えた抗凝固療法の基礎を学ぼう
~薬剤師が最適な薬物療法を提案するために~  

        諏訪赤十字病院 林 美和子


 平成30年11月4日(日)、相澤病院ヤマサホールにおいて、第37回長野県病院薬剤師会 薬剤師専門講座が開催され、79名の先生方が参加され、抗凝固療法の基礎について学びました。
 今回は、「新時代を迎えた抗凝固療法の基礎を学ぼう~薬剤師が最適な薬物療法を提案するために~」をテーマに、積水メディカル株式会社 国内営業部 東日本営業所の須長宏行先生をお招きし、抗凝固薬、採血・採血管の取り扱い、凝固検査の基礎についてご講演いただき、さらに県内の8施設の先生方から、日常臨床での抗凝固療法に関わる取組み事例をご発表いただきました。 

 須長宏行先生からは、抗凝固療法を理解するための基礎知識として、抗凝固療法に関わる際、その背景には、動脈硬化性疾患、慢性腎臓病、糖尿病等が存在していることを念頭に、患者の臓器機能を正しく評価し、適応症、禁忌、腎機能を考慮した上で、適切な抗凝固薬の選択に、薬剤師としての専門性を活かしていくことの重要性をご教授いただいました。日頃の業務において私たち薬剤師は、薬学的な介入として凝固検査の結果だけに注目しており、抗凝固薬の正しい効果判定には採血時の注意や正しい採血管の取扱いが重要であることを意識できていないことが多く、検査結果の裏側に潜む採血時の誤った取扱いが、直接結果に影響を及ぼす可能性があることを認識する、貴重なご講義を頂きました。

また、県内の8施設の先生方から、抗凝固療法関する事例をご提示いただきました。
①長野市民病院 木賀田 亮介先生からは、『腎機能低下患者に対する処方監査への取組
み』として、2014年12月に、薬品-検査値連動注意喚起システムを導入し、日本腎臓病薬物療法学会「腎機能別薬剤投与量一覧」のうち、「最重要」に該当する薬剤を対象に、処方監査画面に「検査値チェック」と注意喚起メッセージを表示し、調剤者、監査者が視覚的にモニタリングを施行できる体制作りを構築。その結果、システム導入前と比較し、導入後の、過量処方の割合は有意に減少し、検査値を含めた処方監査が、腎機能低下例に対する過量投与防止の一助となることを、リバーロキサバンを例に報告していただきました。
②北信総合病院 森川 剛先生からは、『病棟薬剤業務・DI業務における抗凝固薬マネジ
メント』として、直接経口抗凝固薬(DOAC)が登場し、使用頻度が増加する中で、夜間緊急入院の症例を調査し、脳梗塞や脳出血、消化性潰瘍、下腿筋肉内血腫など、その要因として服薬不遵守や不適切な投与量など薬剤関連問題であった事例を報告していただきました。実臨床においては、個々の患者毎に最適な薬剤の選択、投与量の決定を医師と協同して検討していくことが重要であるとし、医薬品情報管理室の業務の一環として、医師向けの勉強会を実施し、薬剤師が医師へ薬剤の評価を説明する業務を展開している。薬剤師による抗凝固薬の適正使用のマネジメントが、医療経済の面でも非常に重要であることを提示していただきました。
③軽井沢病院 伴野一樹先生からは、『当院における周術期抗凝固系薬への取り組み』
として、周術期における抗凝固薬の休薬・再開に関して、これまで再開時期が曖昧であった問題を例として、休薬している患者を常に認識できる環境が必要という観点から、「抗血栓薬 休薬表」を作成し、対象患者の、手術予定日、休薬開始日、再開予定日を可視化し、環境整備を整える取り組みをご発表いただきました。休薬表の運用の効果として、複数の薬剤師で介入する病棟業務においても、術後の抗凝固薬の再開に関しては、医師への適切な提案が可能となることを考察していただきました。
④佐久総合病院佐久医療センター 篠原徹先生からは、『経口抗凝固薬に対する中和薬
の適正使用への取り組みと使用経験』として、抗凝固薬服用中の出血に対する対策として、中和薬の使用院内ガイドラインの作成について、クリニカルパスの運用も含めて、ご発表いただきました。ビタミンK拮抗薬投与患者の迅速な凝固能回復と止血を目的に使用可能となったケイセントラ導入にあたっては、適正使用を推奨するため、臨床検査科と協議しPT-INRの表示上限を変更、また安全性確保のため、専用のシリンジポンプを配置し、適切な流速での投与を可能とするなどの対策を構築された。多職種との連携で、安全を考慮した運用の取り決めを実施していることを報告していただきました。
⑤県立こども病院 西條純先生からは、『小児領域における抗凝固療法への関わり』
先天性心疾患の小児や小児領域のカテーテル関連性の血栓症に対して使用頻度の高いワルファリンについて、剤型の選択、投与量の微調節、小児に対する服薬指導の方法についてご報告いただいた。小児領域では、成人とは異なり、0.1㎎毎の微量な投与量の管理が必要であり、ワルファリン専用の指示表を使用し、効果を適切に評価するため連日血液検査を確認し、結果をもとに適切な投与量を検討する必要性について、一般病院では経験することの少ない現状をご提示していただきました。
⑥信州大学医学部附属病院 竹澤崇先生からは、『術前中止薬を中止しておらず手術が
延期になった事例について~問題点と再発防止の検討~』として、心臓血管外科での手術予定の患者が、指示通りの術前休薬がされず、実際に手術を延期した失敗事例を挙げて、多職種でインシデントの振り返りを行い、対策を検討した内容についてご発表いただきました。抗凝固薬を含めた配合薬が次々と開発される中で、院内非採用薬の認識不足や入院時の持参薬鑑別での薬剤師の介入における質の向上を課題に、再発防止への取り組みとして、入院時に得た情報を、薬剤師が専門性を活かし、医師、看護師等、他の医療従事者へ情報発信していくことの重要性を提示していただきました。
⑦昭和伊南総合病院 池場竜一先生からは、『循環器内科における抗凝固薬に対する関わり』として、心臓カテーテル検査前後のクリニカルパスの運用と薬剤師の関わりについてご報告いただきました。カテーテル検査前の持参薬の確認、抗凝固薬の服用の有無の確認、カテーテル検査後の抗凝固薬の再開時の介入について、実際の症例をご提示していただきました。これまで抗凝固薬の主流であったワルファリンに代わり、DOACが使用されるようになり、実際、病棟のスタッフでは抗血小板薬との混同が起こっている現状もあり、誤った指示での混乱がないよう医療安全の面からも薬剤師の専門的な介入が必須であることを考察していただきました。
⑧飯田市立病院 田平優先生からは、『患者サポートセンターにおける術前休薬へのかかわり-』として、手術や検査のため入院が必要な患者が、安全な治療を受けることを可能とした多職種が連携して支援するためのサポートセンターの立上げについて発表いただいた。術前休薬が必要な薬剤の説明や持参薬の識別に関しては、専門である薬剤師が担当することで、業務の効率化と安全の確保に繋がった。実際に「休薬説明書」を導入し、薬品名と休薬日を明確にするとともに、かかりつけ薬局との連携を図っている。サポートセンターでの薬剤師の活動が、術前休薬の徹底を可能とし、手術の延期を余儀なくされる症例をゼロにした。さらに、その効果が入院後の薬剤師の負担軽減、薬剤管理指導料の算定件数増加にまで効果が広がっていることをご発表いただきました。

 DOACはトロンビンや Xa 因子を選択的に阻害することで抗凝固作用を示すため、食事による影響がない、服用後速やかに効果が発現する、頭蓋内出血が少ないといった利点が挙げられ、ワルファリンに代わり幅広く臨床使用されるようになってきている一方で、 DOAC の登場による医療費増大の問題や治療の選択の複雑化も生じています。また、頻回なモニタリング検査の必要がなく、食事の影響がないなど、使用しやすい反面、過少投与や過量投与の判断がつきにくい欠点もあります。
コスト面や服薬アドヒアランス、併用薬などを含めた患者毎の背景を考慮した上で、抗凝固薬を選択していくことが大切であり、私たち薬剤師が、患者の状況に応じた適切な治療法を提案するためのスキルを習得し、各施設の取組みについて学ぶ、大変貴重な情報交換の場となりました。

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